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海外投資実践マニュアル(7)
米国市場の基礎知識(6)
債券
■債券の種類
アメリカの債券は大きく、米国債、地方債、エージェンシー債(政府機関債)、事業債(社債)に分けられる。それ以外に、日本の円建て外債にあたるユーロ債やグローバル債(ドル建てで発行される外国債)も流通している。
1)米国債 Treasury Securities
アメリカの国債は、財務省Treasuryが発行することから、Treasury Securitiesとよばれる。これは世界最大規模の金融商品で、米国債の価格(金利)変動は世界経済に大きな影響を与える。米国債は、償還までの期間や発行形態によって、次のように分類できる。
(1) T-Bill (Treasury Bills)
残存期間1年未満の割引国債で、定期的に発行される3カ月物、6カ月物、1年物の3種類と、非定期的に発行される「納税引当債Cash Management Bill」がある。日本の「短期割引国債」に相当。
(2) T-Notes (Treasury Notes)
発行時1年超10年以内の利付国債。2年物、3年物、5年物、10年物の4種類があり、日本の「中期国債」「長期国債」に相当する。
(3) T-Bond (Treasury Bonds)
発行時10年超の利付国債。現在は新規発行なし。すでに発行されている債券については、ブローカー(証券会社)を通してマーケットから購入が可能。
(4) TIPS(Treasury's Inflation-Protected Securities)
1997年1月に初オークションが行なわれたインフレ保護型債券(ティップス)。インフレ率に応じて債券の額面価格が上がっていくのでインフレによる資産の目減りを防ぐことができる。仕組みは若干異なるが、日本の個人向け国債に相当。
(5) STRIPS(Separate Trading of Registered Interest and Principal of Securities)
利付債の元本部分とクーポン部分を分離し、元本部分を利付債の償還を満期とする割引債に、クーポンをそのクーポンの支払日期日を満期とする割引債として販売するもの。
2)地方債 Municipal
アメリカの州State、郡County、市Cityなどの行政機関が発行する地方債で、現在、4,600以上が発行されている。
こうした地方債は各行政機関が条例によって発行するもので、さまざまな特典をつけることが可能。一般の債券は利子所得や売却益に課税されるTaxableになるが、こうした地方債の中には、購入者を増やし、かつクーポン・レート(表面金利)を引き下げるために課税を免除するTax Freeタイプのものも多く発行されている。
2)エージェンシー債 Agency Bonds
政府系機関が自らの事業を行なうために発行する債券、日本での「財投債」「財投機関債」にあたる。簡単にいえば、住宅金融公庫などの特殊法人が、自ら保有する不動産や、そこから得られる賃貸料収益を担保に債券を発行するようなもの。アメリカの代表的なエージェンシー債には、以下のようなものがある。
(1) Federal Home Loan Bank(連邦住宅貸付銀行FHLB)
(2) Federal National Mortgage Association(連邦住宅抵当金庫FNMA)
愛称ファニー・メイFanny Mae。これに対して、Government National Mortgage Association(米国住宅抵当金庫GAMA)を「ジニー・メイGinnie Mae」とよぶ。
(3) Federal Home Loan Mortgage Corporation(連邦住宅貸付抵当会社)
愛称は「フレディ・マックFreddie Mac」。
(4) Federal Farm Credit Banks(連邦農業信用銀行制度FFCB)
(5) Student Loan Marketing Association(学生購買貸付協会SLMA)
エージェンシー債は大半が実質政府保証で、格付はトリプルAか、格付を取得していない場合でもトリプルAクラスと見なされる。
4)事業債 Corporate Bond
直接金融の発達したアメリカでは、格付にかかわらず、企業が社債を発行して市場から資金調達するのが普通になっている。こうした事業債は、発行形態によって一般社債Debentures、不動産担保付社債Mortgage Bonds、証券担保付社債Collateral Trust Bonds、劣後社債Subordinated Debenture、設備担保社債Equipment Trust Certificatesなどに分類される。
また発行業種によって公益事業債Utilities Bonds、運送機関債Transportation Bonds、一般事業債Industrials Bonds、金融機関債Banks & Finance Company Bondsなどに分けることもある。
5)ゼロクーポン債 Zero Coupon Bond
クーポン(利息)が付かない、いわゆる割引債のこと。額面価格より割り引いた価格で発行され、償還時に額面金額を受け取ることができる(この差額がクーポンに相当する)。
1年未満の短期国債Treasury Billsはすべてゼロクーポン債。長期の割引債であれば、実際の価格が額面の半額以下にまで下がることもある。
6)コーラブル債 Callable Bond
債券を発行する企業が期限前償還をする権利(コール条項)をもつタイプの債券。市中金利が大きく下がった場合に、企業は債券を償還して安い市場金利で資金を調達できる。
投資家としては、企業にコール条項を行使されて元本を返済されてしまうと、その分利回りが下がってしまう。そのうえコール条項が行使されるのは債券の発行時よりも金利が下がっているときだから、債券価格は上昇している。せっかく値上がりしているのに、いきなり額面で償還されたのでは今までの苦労が水の泡だ。
このようなことから、コール条項を行使するには30日以上前からの投資家への告知が義務付けられており、償還価格もそのときの債券価格が考慮されるのが一般的(問答無用で償還価額で繰上げ償還される場合もある)。
ふつうはコール条項で債券の全額を償還することはなく、その一部のみを繰り上げ償還することになります。その場合は抽選で債券番号が選ばれ、それに当たった人が償還の対象となります。
一般の債券では、金利が下がれば下がるほど債券価格は上昇していく、コーラブル債の場合、ある程度まで金利が下がると(債券価格が上昇すると)繰り上げ償還が待っているため、債券価格は一定になる。この、コール条項によって債券価格が一定になる時点の利回りが、「Yield to Call(YTC)」とよばれる。
コーラブル債は、ふつうの社債にコール・オプションの売りを加えたもので、相手に債券を買い戻す権利を与えた分だけ(コール・オプションを売った分だけ)利回りが高くなっている。
■取引のルール
1)購入方法
米国債は、株式のような時価取引ではなく、あらかじめマーケットメイカーによって提示される値段で売買が行なわれる。これは投資家の注文をそのまま債券市場に流すのではなく、証券会社側との相対取引になるためだ。この相対取引は、「SUBJECT」すなわち条件付で行なわれる。
相対取引では、原則として価格変動リスクは証券会社側が負うことになり、投資家側は予定した価格で購入できる。ただし予想外の価格変動があった場合には、証券会社側は条件を変更する権利を留保している。これが「SUBJECT」で、「大きな価格の変動がなければここで提示した値段で販売(購入)する」という条件を意味している。
債券市場には価格をリアルタイムで表示するような機能はないので、投資家はブローカーのサイトなどを通して常に最新の価格をチェックする必要がある。
債券売買の注文には「Market Order(成行注文)」と「Limit Order(指値注文)」がある。株式と異なるのは、Limit Order(指値注文)の場合、「Price(価格)」と「Yield(利回り)」のどちらでも指値ができる点。債券の場合、価格と利回りは1対1で対応しているから、たとえば利回り6.9%のときにYield7%で指値をすれば、利回りが7%になる水準まで価格が下がったときに注文が執行される。
2)売却と償還
債券を満期まで持っていると満期日に額面価格で償還される。償還にあたっては特別な手続きは必要なく、債券を購入した証券会社の口座に自動的に入金される。
購入した債券を市場で売却することもできる。中途売却した場合は、保有期間に応じてクーポンの経過利息が支払われる(既発債を購入する場合は逆に経過利息分を支払うことになる)。このあたりのルールは日本で債券を売買するときと同じ。
3)取引単位
通常、最低1単位から注文が可能。米国債の場合、1単位は最低1,000ドルで、債券の種類によって異なる。
4)配当
利付債の場合は所定の配当(クーポン)が定期的(四半期もしくは半期)に支払われる。配当の受取にあたって特別な手続きは必要なく、10%(米国非居住者)の源泉徴収課税を控除した後、債券を購入した証券会社の口座に自動的に振り込まれる。
■オークションAuctionへの参加
安い手数料で米国債を入手する方法として、オークションAuction、つまり新発債を購入する方法があります。ただしオークションといっても自分で入札価格を決められるわけではなく、その日の入札価格で購入することになる。
米国債の入札は、資金繰りに必要な短期債を除けば不定期。これらの入札スケジュールは、財務省のホームページで確認することができる。
■Treasury Directでアメリカ財務省から直接、国債を買う
米国債を購入するには、証券会社を利用するほかに、財務省のサイト「Treasury Direct」を利用する方法がある。その最大のメリットは手数料が一切不要なこと(口座残高が10万ドル以上になった場合は年間25ドル)。そのうえ購入した債券は財務省の責任で保管されるから、これ以上安全な場所はない。
米国非居住者でも利用可能だが、そのためにはふたつの条件をクリアしなければならない。
1)アメリカ国内の銀行に当座預金口座Checking Accountもしくは普通預金口座Savings Accountを持っていること。
2)SSN(Social Security Number社会保障番号)かITIN(Individual Tax Identification Number個人用納税者番号)を持っていること。
2)は必須ではないが、SSNもしくはITINがないとインターネットにアクセスできず、債券の購入や残高照会などすべての手続きを郵送で行なうことになり。
Treasury Directのホームページ
Treasury Directには、以下のような特徴がある。
1) 新発債しか購入できない。
2) 償還前に換金する場合は、Treasury Directの口座にある国債を証券会社の口座に移管して売却しなければならない。
3) 最低投資額は1,000ドル
新発債の発行頻度は週1回〜月1回程度で、常に募集があるわけではない。償還前の換金を証券会社(ブローカー)に依頼する場合は、証券会社側で手数料が発生する。Treasury Directを使った債券投資は「満期まで持つ」が基本。
*ITINについて
アメリカは国民の金融資産をSSNで管理しているので、一般に銀行などに口座開設する際にはSSNが必要になる。このSSNはアメリカでは身分証明書の代わりにも使われており、以前は駐在員の家族や運転免許取得目的の旅行者にも発行されていたが、現在はアメリカ市民、グリーンカード保有者、労働許可証保有者にしか発行されない。
ITINは、上記の要件を満たさないもののアメリカに税務申告が必要な人のための納税者番号で、SSNと同じ9桁なので、ITINを登録しておけばSSNで本人認証する金融機関のホームページにもアクセスできるなどなかなか便利。
以前はITINの申請にとくに条件はなく、赤坂のアメリカ大使館内にあったIRSの出張所に行けば誰でも簡単に発行してもらえたが、その後大使館内のIRSが閉鎖され、また2003年12月からはテロ対策の一環で税務申告目的以外のITINの申請が認められなくなくなった。
その結果現在では、税務申告書類とセットでなければITINを申請できず、また郵送での申請には身分証明書類であるパスポートのコピーに公証が必要なことから、日本からの申請は難しくなってしまった(日本の公証役場ではパスポートの公証はできない)。
ただし、アメリカ国内で不動産を賃貸・売却するなど、申告の必要な所得が発生した場合はITINの取得が必要になりる。2003年12月以前は、アメリカで運転免許をとるためにITINを入手した人も多いだろう。こうして手に入れたITINはいまでは「貴重品」なので、大切に保管しておこう。