小富豪のための香港金融案内FAQ


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香港の金融制度

Q1 香港ではいろんな種類のお札が流通しているのはなぜですか?

Q2 民間銀行が紙幣を発行して問題は起きないのですか?

Q3 香港ドルと米ドルの関係はどのようなものですか?

Q4 香港ドルと中国元との関係はどのようなものですか?

Q5 香港の銀行で人民元口座は開設できますか?

Q6 人民元口座を開くにはどのようにすればいいのでしょうか?

Q7 人民元に対する規制にはどのようなものがありますか?

Q8 2003年10月に香港ドルのレートが1ドル=7.7香港ドルまで上昇しましたがなぜですか?

Q9 人民元が切り上げられた場合、香港ドルはどうなるのでしょうか?


Q1 香港ではいろんな種類のお札が流通しているのはなぜですか?

A 香港で複数の紙幣が流通しているのは日銀に相当するような中央銀行が存在しないからです。日銀券のような紙幣は存在せず、香港ドル札は香港上海銀行、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行(香港支店)という3つの民間金融機関(中国銀行は半官半民の「商業銀行」)によって独自に発行されています。これを、中央銀行制度に対し「カレンシーボード制」と言います。

 香港では民間紙幣として、20ドル、50ドル、100ドル、500ドル、1,000ドルの5種類が流通していますから、発券銀行によって異なる計15種類の紙幣が使われています(写真参照)。ただし10、20、50セントと1、2、5、10ドルの7種類のコインは金融管理局、2002年9月に発行された新10ドル紙幣は特区政府が発行しています。

Q2 民間銀行が紙幣を発行して問題は起きないのですか?

A. 自由に紙幣を発行できるなら、その特権をもっとも手軽に享受する方法は無限に紙幣を印刷することです。何らかの規律がなければ市場には香港ドル紙幣が溢れ、ハイパーインフレが発生することは間違いありません。そのため、政府とは独立した権限を持つ中央銀行が「通貨の番人」として貨幣の流通を管理するわけですが、カレンシーボード制ではこの番人が存在しません。

 貨幣は国家の信用を裏づけにして発行されます。中央銀行のない香港の場合、香港ドル紙幣は米ドルの信用をもとに発行されています。これがドルペッグ制で、香港は米ドルという通貨(カレンシー)に自国通貨を釘付け(ペッグ)することで貨幣の流通量を管理しているのです。

 1983年以来、若干の調整はあったものの、香港ドルは1ドル=7.8香港ドルで米ドルに固定されています。紙幣の発券を許された三つの金融機関は、この固定レートで換算された米ドルを100%以上保有することが義務づけられています。これによって紙幣の流通量に自ら上限が設定されるわけです。

 カレンシーボード制においては、発券銀行はいつどのような時であろうとも、定められた交換レートで、自らが発券した香港ドルを米ドルに交換しなければなりません。通貨の発券量は銀行の規模によって異なり、現在の発券シュアはおおよそ、香港上海銀行が8割、スタンダード・チャータード銀行と中国銀行が1割ずつとなっています。券面に獅子が印刷された香港上海銀行の紙幣を目にすることが多いのはこのためです。

 なお香港ドルは、「元」とも表記されることがあります。地元の商店では、現在でもほとんどがこの「元」表示を使っています。

Q3 香港ドルと米ドルの関係はどのようなものですか?

A. カレンシーボード制によって香港ドルが米ドルにリンクされている以上、金利や為替レートは米ドルと連動して動きます。

 香港ドルのレート計算は非常に簡単です。円ドルレートさえわかっていれば、それを7.8で割れば、円と香港ドルとの交換レートが即座に計算できます。1ドル=117円ならば、自動的に1香港ドル=15円と決まるわけです(117円÷7.8=15円)。

 香港ドルが米ドルにペッグしているということは、預金金利もまた米ドルに追随するということです。FRB(米連邦準備制度理事会)が金利を引下げれば香港ドル金利も下がり、インフレ懸念で金利引上げが実施されれば香港ドル金利も上がります。 このような特徴から、香港ドル預金は米ドル預金の一種と考えることもできます。ただし通常、香港ドルの金利は米ドルよりも若干高めになります。これは香港ドルのペッグが外れ、為替が下落するリスクがあるためです。

Q4 香港ドルと中国元との関係はどのようなものですか?

A. 香港ドルは米ドルにペッグする一方で、中国の人民元とも密接な関係を持っています。

 中国における中央銀行は中国人民銀行で、この銀行が発行する通貨が「人民元」です。中国人民銀行は共産党政権が1948年に設立した銀行で、それ以前は、国民党系の中国銀行が通貨「元」を発行していました(革命後、中国銀行は外為専門の商業銀行に格下げされ、現在、その香港支店が香港ドルの発券銀行となっています)。

 中国の人民元は実質的な固定相場制を続けており、80年代には外国人専用の「外国兌換券(FEC)」が別に発行されるなど、二重レートの時代が長く続きましたが、1994年になって中国政府は、世界貿易機構(WTO)加盟の準備としてFECを廃止し、人民元の公定レートを実勢レートに合わせるために1米ドル=5.9元から8.6元へ約33%の切下げを実施しました(この通貨切下げが97年のアジア通貨危機の遠因になったとの説も有力です)。

 現在、香港ドルは1ドル=7.8香港ドルで米ドルとペッグし、人民元は1米ドル=8.6元の固定相場が維持されています。したがって、香港ドルと人民元は、「1香港ドル=1.1元」で事実上、一体化しているということになります。

 人民元は、貿易取引などに限って交換することが認められている制限付きの通貨なので、資本取引(貿易など実需以外の通貨の交換)が大半を占める為替市場では流通していません。しかし為替市場で自由に交換できない通貨では、海外の投資家の資金を呼び込むことは不可能です。そのため中国は、その役割を香港ドルに負わせています。

 香港の株式市場に「H株」と呼ばれる銘柄があります。これは海外の投資家から資金調達したい中国国内の企業が香港の株式市場に上場したもので、中国企業はこのようにして調達した香港ドル資金を人民元に交換し、設備投資などに充当しました。これが90年代の中国経済の高成長を支えた一因です。人民元は、香港ドルという「窓」を通じて外の世界につながっていたのです。

Q5 香港の銀行で人民元口座は開設できますか?

A 香港の金融機関で人民元建ての預金をすることはできません。ただし2004年度より個人向けの人民元業務の解禁が検討されています。

Q6 人民元口座を開くにはどのようにすればいいのでしょうか?

A 中国国内の銀行に口座を開設すれば外国人でも人民元建ての預金が可能です。
アメリカなどから人民元に強い切上げ圧力がかかるようになってから、日本の個人投資家の間でも人民元預金が注目を集めました。最近は上海の中国銀行や香港上海銀行で口座開設するケースが多いようです(支店によっては断られることもあります)。

 口座開設にあたっては旅行者でもパスポート以外の特別な書類等は必要なく、その場で通帳やカードが発行されます。ただし人民元は厳しい通貨管理の下に置かれているため海外送金や両替に規制が多く、注意が必要です。

Q7 人民元に対する規制にはどのようなものがありますか?

A 中国政府は現在、外貨の持込みと人民元の持出しを1回当たり5000米ドル(約60万円)に制限しています。日本から高額の円を持ち込んだり、中国国内にある人民元を大量に持ち出して海外で両替することはできません。

 海外から中国国内の金融機関への送金、あるいは中国国内の金融機関から海外への外貨建ての送金は比較的自由ですが、人民元の海外送金は認められていません。人民元から外貨への両替にも厳しい制限があり、たとえ外貨からの両替した人民元であっても、元の外貨には50%しか戻せない、などの規制が敷かれています。

 こうした制約を考えると、現時点では投資目的の人民元保有は慎重に行なった方がいいでしょう。

Q8 2003年10月に香港ドルのレートが1ドル=7.7香港ドルまで上昇しましたがなぜですか?

A カレンシーボード制は金利の調整によって為替レートを固定する仕組みです(コラム参照)。香港ドル安の場合は香港ドル金利が上昇し、金利裁定が働いて為替レートが調整されますが、逆に香港ドル高の場合、現在のような低金利では、マイナス金利にでもしない限り金利裁定は働きません(米ドルに対して香港ドル金利が十分に低ければ、香港ドルを売って米ドルを買う動きが強まりますから為替は香港ドル安に動きます)。もともと香港ドルは通貨高に対して脆弱な状態になっていたわけです。

 そこで香港金融当局は、1ドル=7.7香港ドルに接近した段階で10億香港ドル(約150億円)規模の香港ドル売り介入を行ない、通貨の許容変動幅を内外に示しました。今後も7.7香港ドルを上回る通貨高には介入で対抗すると思われます。

 なお、今回の香港ドル高の背景には、人民元の切上げを見込んだ投機資金の流入説や、SARSなどの影響で香港ドル安を仕掛けた投機筋の買戻し説など、さまざまな見方があります。

Q9 人民元が切り上げられた場合、香港ドルはどうなるのでしょうか?

A. 97年のアジア通貨危機では「人民元は割高であり切り下げられるべきだ」というのが市場の評価とされていました。2003年現在、日本やアメリカを中心に、「中国は世界を覆うデフレ化の元凶であり人民元は大幅に切り上げられるべきだ」という主張が声高に語られています。

 中国もWTO(世界貿易機関)に加盟した以上、いつまでも固定相場制を維持していることは許されません。変動相場制への移行時期とその際の為替水準が注目を集めています。

 香港ドルは米ドルとペッグし、人民元と一体化した通貨です。人民元が変動相場制に移行すれば香港の運命に大きな影響を与えることは確実です。

 香港経済の現在の苦境は、物価も人件費も安い中国市場に隣接し、そのデフレ圧力を真っ向から浴びていることにあります。香港と広東省は同じ文化圏で、企業の多くは人件費の安い中国本土に工場を移転させました。人々は気軽に「国境」を越えて物価の安い広東や深圳に買い物に出掛けます。食料品、雑貨、衣類から家電・工業製品に至るまで、安い中国製品が大量に流れ込んできます。香港ドルが人民元に対して割高なままでは、香港はこの熾烈な市場競争に生き残ることはできません。

 人民元が切り上げられ、香港ドルと米ドルのペッグが維持されれば、中国からのデフレ圧力は軽減し、香港経済は大きな恩恵を被ることになるでしょう。一方、香港ドルが人民元と同時に切り上げられるなら、輸出競争力を失うだけで中国からのデフレ圧力は変わらず、香港経済は壊滅的な打撃を被る怖れがあります。

 未来を予測することは不可能ですが、ひとつだけ確実だと思われることがあります。どのような経緯を辿るかは別として、いずれ香港ドルはその歴史的使命を終え、人民元に吸収されていくだろうということです。

 中国経済の高度成長と国際化にともない、上海が金融市場としての存在感を増しています。人民元が変動相場制に移行し為替市場が整備されれば、中国企業は香港という「窓」を必要とせずに資金調達するようになるでしょう。その時、ひとつの国家にふたつの貨幣制度を併存させることの意味はなくなります。

 1997年の香港返還に際し、搶ャ平は「一国二制度」の50年間不変を約束しました。彼の死後もこの言葉が守られるなら2047年まで現在の制度が維持されることになります。はたしてその時に香港は東アジアのオフショア金融センターとしての地位を保っているでしょうか? 香港の未来を賭けた挑戦は続いています。


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