小富豪のためのハワイ極楽投資生活・入門
ハワイに関する10の誤解
10)年金でハワイ暮らしが実現できる
「年金で海外生活をしよう」という本が人気を集めています。では、年金でハワイ暮らしが可能でしょうか?
最初に、「海外年金生活」についての誤解を指摘しておきます。たとえばタイは物価が安く、バンコクで月7〜8万円、チェンマイなら月5万円程度で充分な広さの外国人向けコンドミニアムを借りられます。食費などはさらに安く済むので、夫婦で月20万円超の年金があれば優雅な生活ができる、という話になります。
しかし、タイの夏季は耐え難いほど暑く、居住には適さないので、ほとんどの人が日本に自宅を残したまま、気候のいい冬季にタイを訪れます。
この場合、日本での住コストはまったく変わらないわけですから、タイでの不動産賃料がそのまま持ち出しになります。その他の生活費が安くなるとはいえ、全体の出費が減ることはありません。住宅コストの二重払いを避けるには、キャッシュフローを生まない日本での住居を売却して海外に移り住む必要があります。
永住資格のあるビザの取得が困難なアメリカの場合は、こうした傾向はさらに顕著です。ハワイ暮らしの体験を綴った本が何冊も出版されていますが、執筆者の多くは、ハワイで不動産を購入しながらも、観光ビザで日本とハワイを往復しています。
年に半年は日本で暮らさなければならないわけですから、一軒の家が二軒に増えただけです。ハワイの住宅コストはタイやマレーシアよりずっと高いので、これは贅沢ではあっても、「生活防衛」には何の役にも立ちません。
賃貸ならワイキキ周辺に安い物件がありますが、老朽化していたり、学生が住むようなアパートだったりするため、リタイア後の生活には不向きです。ビーチに近いリゾートタイプの物件になると安くても月1,500〜2,000ドル程度(約16万〜22万円)は必要で、管理コストも高いので、これだけで年金のほとんどは消えてしまいます。
退職金を使ってハワイに不動産物件を購入する人もいますが、どちらも自己使用ではキャッシュを生まないため、リタイア後の資産運用としてはかなり割の悪い投資です。
それに加えて、ハワイ暮らしにはさまざまなコストがかかります。
ワイキキの中心部に住むような場合を除けば、ハワイでは車が必需品です。車の価格は日本とさほど変わらず、中古車市場も充実していますが、ハワイは交通事故率が高く、無保険車も多いため、一度でも事故を起こすと自動車損害保険の保険料が跳ね上がります。
日本の健康保険でも海外での医療費が一部支給されるようになりましたが、アメリカの高額な医療費を賄うことはとうていできないので、日本で加入している健康保険のほかに、海外旅行障害保険か現地の医療保険に新たに加入する必要があります。これもまた、日本とアメリカで保険料を払うことになります。
日本とハワイでの二重生活を考えると、単純に生活コストが倍になるのですから、年金収入のみでこれを実現するのは現実的ではありません。日本での生活拠点をすべて引き払い、ハワイに移住するつもりならかなりの節約になりますが、それでも日本で暮らすより生活費が安くなるかは疑問です。
ちなみにアメリカでは、リタイア後をハワイで過ごすなら、少なくとも月3,000ドル(約33万円)程度の安定した収入が必要と考えられています。厚生年金と企業年金を満額受け取れる年金「勝ち組」層は別として、破綻した年金制度の下で、将来もこれだけの支給額が維持されるかはちょっと不安です。
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ここまで読んで、「ハワイ暮らしの夢が壊れた」と憮然としている方がいるかもしれません。とはいえ、私たちは「ハワイ暮らしをあきらめよう」と言っているのではありません。生活コストが高いのは、それを支払うだけの価値があることの証明でもあります。
アメリカで出版されているハワイ移住ガイドはどれも、本書で述べたような、読者にとってネガティヴな話から始まっています。ハワイに住むことを考える人は、当然、ハワイの魅力についてよく知っているので、「夢」ばかり書いても情報として何の価値もないからです。
海外で暮らしてみるのは、誰にとっても素晴らしい体験です。とくにハワイは、私たち日本人が安心して生活できる数少ない外国のひとつでもあります。しかし、ハワイは“幸福の楽園”ではありません。口当たりのいい情報に振り回されて、ネガティヴな側面をなにひとつ知らないのなら、挫折と失望だけが残ることになるでしょう。
夢を見ていたのでは「夢」は実現できません。さまざまな困難を乗り越えた時に、はじめて「夢」はあなたの手の中にあるのです。