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橘玲の「不思議の国」探検 Vol.8

Akira Tachibana Archives

橘玲の「不思議の国」探検

日経ヴェリタス

優待もらっても損の逆説

橘玲の「不思議の国」探検 Vol.8:『日経ヴェリタス』2010年2月14日号掲載




 マレーシアの首都クアラルンプールからバスで1時間ほどの山の中に、ホテル、遊園地、ショッピングセンターからカジノまで揃えた巨大なテーマパークがある。写真で見るとまるでラスベガスみたいだが、僕はまだ行ったことがない。それなのになぜこんなローカルな話題を知っているかというと、僕がこの会社の株主だからだ。

  以前、クアラルンプールを訪ねたときに面白半分で現地の証券会社に口座を開け、いくつか適当に株を買ってみた。そのなかに不動産開発会社があって、毎年、株主優待で遊園地の割引券をエアメールで送ってくるのだ。

  日本航空の法的整理が決まって、一時は300円を超えていた株価がとうとう1円になってしまった。株主優待の割引券を楽しみに株を買った多くの個人投資家が損失を被ったという。その記事を読んで、まだ見ぬマレーシアの遊園地を思い出した。僕にとって、これが唯一の“株主優待”だったからだ。

  毎年お歳暮やお中元のシーズンになると、新聞や雑誌で株主優待特集が組まれる。でもそれが日本だけの慣習で、世界の会社はどこも株主優待なんてやっていないという“常識”はなぜか書いてない。

  手元の「株主優待ガイド」を見ると、不動産管理会社はハムの詰め合わせや北海道産のアイスクリームを贈ってくれる。自動車部品の製造会社は地鶏カレーや調味料セットで、システム開発会社は特選蔵王牛だ。

  会社法は株主平等が原則だから、株主なら誰でも優待が受けられる。だったら、ファンドや年金基金、生命保険を通じて投資している人や、外国人株主の「優待」の権利はどうなっているのだろう。僕は以前、ファンド関係者に訊いてみたことがある。彼の答はきわめてわかりやすかった。

「金券ショップなどで換金できるものは現金化する。それ以外は自分たちで分配する。それに文句があるんなら、いったいどうすればいいか教えてくれよ」

  株主優待は、権利を行使できない株主にものすごく不利な制度だ。だから欧米市場はもちろん、外国人持株比率の高い新興国でも株主優待はあり得ない。マレーシアの会社が遊園地の割引券を配るのは気にならないけれど、それがマンゴーの詰め合わせだったら僕だって欲しいと思うだろう。みんなを平等に扱うには、利益はモノではなく金銭で還元するしかないのだ。

  ところが世界のなかで日本にだけは、「株主優待を目当てに株を買う」という不思議な投資家がいる。アイスクリームが食べたければ、配当のお金で好きなものを買えばいいのに。

  株式投資とは、会社の未来の利益に賭けることだ。それがもしゼロになってしまうなら、ハムの詰め合わせをもらっても割に合わない。航空会社の株主優待割引券だって同じことだ。

  これは、“本末転倒”という熟語を説明するのに格好の例だ。せっかくの株券が紙くずになる前に、だれか教えてあげればよかったのに。

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