小富豪のためのタックスヘイヴン入門


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FAQ2 タックスヘイヴンのポイント

Q1 タックスヘイヴン(オフショア)とは何でしょうか?
Q2 タックスへイヴンの国々は、税金をとらずにどうして国家の運営ができるのでしょうか?

Q3 タックスヘイヴンが「有害税制」と言われるのはなぜですか?
Q4 タックスヘイヴンが有害税制なら、将来的にタックスヘイヴン国はなくな

Q5 タックスヘイヴンにはどのような国や地域があるのでしょうか?


Q1 タックスヘイヴン(オフショア)とは何でしょうか?
A タックスヘイヴンTax Havenは「租税回避地」という訳語のとおり、所得税・法人税・資産課税・相続税などがきわめて低いか、まったく存在しない国や地域のことをいいます。
 オフショアOffshoreは「向こう岸」のことです。そこからオンショアOnshore(此岸)を「国内」、オフショアを(彼岸)を「海外」の意味で使うようになりました。「オフショア金融機関」というのは、国内(域内)の金融市場ではなく、主に国外市場や海外顧客を対象とする金融機関です。
 ただし、オフショア金融機関の大半が有利な税制を持つタックスヘイヴンに拠点を構えているため、この両者はほぼ同義で使われています。本書でも、とくに区別はしません。
Q2 タックスへイヴンの国々は、税金をとらずにどうして国家の運営ができるのでしょうか?
A タックスヘイヴンというのは、観光くらいしか資源のない貧しい島国や小国がほとんどで、そもそも税収そのものがたいしてありません。したがって税率を下げても、失うものはほとんどありません。
 それに対して、無税化によって彼らは実に多くのものを得ることができます。法人税を下げて海外の企業の誘致に成功すれば雇用が発生します。所得税や相続税をなくせば、海外から資産家が移住してくるかもしれません。そうなれば、高級品を中心に消費が刺激されます。資産課税をなくせば、世界中から莫大な資金が集まり、多くの金融機関が進出してくるでしょう。そう考えれば、貧しい島国や小国にとって、タックスヘイヴン化は国民の生活を向上させる合理的な選択なのです。
 なお、タックスヘイヴン国においても国内所得(その国で働いて得た所得)に対しては所得税や法人税が課せられます(一般に海外から得た所得は非課税となっています)。また、進出企業や金融機関からは登録料などのかたちで手数料を徴収してもいます。これが実質的に国家の税収となります。
Q3 タックスヘイヴンが「有害税制」と言われるのはなぜですか?
A タックスへイヴン化は貧しい国にとっては合理的な選択ですが、同時に、その周辺の国々に悪影響を及ぼします。近隣にタックスヘイヴン国があれば、個人や法人の資産が税金のかからない場所に移動していくのは必然だからです。それを防ぐためには、周辺諸国もタックスへイヴン並みの税率にするしかありません。
 このようにして現在、欧米諸国の個人資産に課せられる税率は徐々に引き下げられてきています。減収分は所得税や消費税によって埋め合わされることになり、働くよりも資産運用したほうが得という不合理な状況も生まれてきます。
 このように、タックスへイヴンの存在は周辺国の財政や社会規範に悪影響を与えることから、OECDではこれを「有害税制」として、タックスへイヴン国に対して税率の引き上げや徴税のための情報交換を要求しています。
Q4 タックスヘイヴンが有害税制なら、将来的にタックスヘイヴン国はなくなってしまうのでしょうか?
A タックスヘイヴンの存在は周辺国にとっては悩みの種ですが、その解決は簡単ではありません。
 国際社会においては、どのような小さな国であっても「主権Sovereign」を持っているとされています。この主権は本来、「神から与えられた権利」であり、他国が暴力でもって主権を侵すことは厳しく禁じられています。
 したがって、それがたとえ人口10万人に満たない小さな国であっても、民主的な主権国家が正当な手続きを経て決定した税制に他国が干渉することはできません。仮に貿易などで制裁措置を課すことがあったとしても、タックスヘイヴン政策にそれを上回るメリットがあれば、無税化を撤回することはないでしょう。ほとんどのタックスヘイヴン国は、税制のメリットを失ってしまえば、ただの貧乏な国に戻るしかないからです。
 もうひとつの障害は、タックスヘイヴンに反対する先進諸国も、自国のマーケットに海外の資金を誘導するため各種の税制優遇措置を用意していることです。
 たとえば世界最大の金融マーケットを擁するアメリカでは、非居住者である海外の投資家は、株式の売却益(譲渡所得)や預金の利子に課税されることがありません。イギリスも同様に、海外からの投資を優遇する税制を採用しています。
 こうした現実を皮肉って、「世界最大のタックスヘイヴンはアメリカ、第二位のタックスヘイヴンはイギリス」などと言われます。アメリカやイギリスがタックスヘイヴン政策を撤回しない以上、他の国々に税率引き上げを強要しても説得力はありません。
 ただし、国際的なマネーロンダリング規制やアンチ・テロの流れの中で、タックスヘイヴンに対する圧力が高まっているのも事実です。現在ヨーロッパでは、周辺の低税率国に対し、「守秘義務」規定を撤廃して預金者情報を外国政府機関に通知するか、預金利子に対してEU諸国並みの源泉課税(35%程度)を課す交渉が行なわれています。仮にこれが実現すると、タックスヘイヴンをめぐる状況も大きく変わるでしょう。
Q5 タックスヘイヴンにはどのような国や地域があるのでしょうか?
A タックスヘイヴン(オフショア)は、次の5つの地域に大きく分けられます。
1)ヨーロッパ
・ モナコ、ルクセンブルク、リヒテンシュタインなど、ヨーロッパの小国
・ マン島、チャンネル諸島など、イギリス周辺の島々
・ アイルランド
2)カリブ海
・ ケイマン、BVI(ブリティッシュ・ヴァージン・アイランド)、バハマ、パナマ、バミューダなどの島々
3)東アジア
・ 香港
・ シンガポール
4)太平洋諸島
バヌアツ、ナウル、ニウエなどの島々
5)アラブ
アラブ首長国連邦(ドバイ)
それぞれのタックスヘイヴンの特徴を、簡単に説明しておきます。
ヨーロッパのタックスヘイヴンは、ユーロダラーの受け皿として発展しました。ユーロダラーというのは、アメリカから国外に流出したドルの総称です。
米ドル以外の通貨は、原則として通貨発行国でしか使い道がないため、海外に流出しても最終的には国内に戻ってきます。しかし唯一の基軸通貨である米ドルは多くの国で使用できるため、その一部はアメリカに戻ることなく国外に滞留します。こうしたドルの多くがスイスなどヨーロッパの金融機関に預けられたため、ユーロダラーEuro Dollar(ヨーロッパのドル)と呼ばれるようになりました。ユーロダラーは1960年代から拡大を続け、巨大なマーケットを形成しています。
現在では、イギリスをはじめとするヨーロッパの大手金融機関のほとんどがオフショア金融法人を擁し、銀行・保険・投資信託などさまざまな金融商品を販売しています。その意味で、質量ともに他の追随を許さないのが、ヨーロッパのタックスヘイヴンといえます。
カリブのタックスヘイヴンは、いうまでもなくアメリカの裏庭です。ただしアメリカ政府は国民のタックスヘイヴン利用を厳しく規制しており、イギリスのように大手銀行がこぞってオフショアに子会社を設立するようなことはありません。そのためカリブの島々の金融機関は小規模のところが多く、初心者向きとはいえません。
香港やシンガポールは日本人にもっとも身近なオフショアです。もともとは華僑マネーの受け皿として発達しましたが、香港は現在、中国投資の最前線として大きくその役割を変えつつあります。香港・シンガポールともに金融機関は海外顧客の開拓に積極的で、日本人なら比較的簡単に口座開設ができます。飛行機で4〜5時間という近さが、なんといっても最大の魅力です。
あまり知られてはいませんが、太平洋戦争の激戦地だった南太平洋の島々もその多くがタックスヘイヴンです。この地域はオーストラリア経済圏で、大半の島にオーストラリアの大手銀行がオフショア法人を設立しています。また旧宗主国(イギリス、フランス)の金融機関が支店を出している場合もあります。
アラブ圏のタックスヘイヴンは、もちろんオイルマネーの受け皿として発達しました。しかしこれらの金融機関では英語が通じないところもあり、日本人が積極的に利用する環境とはいえません。
このように見ていくと、私たち日本人は、信頼性の高いヨーロッパか、地理的に便利な東アジアを中心にタックスヘイヴン(オフショア)を利用するのが合理的といえます。


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