Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
12.飲食街
中華料理店の入口横には、鶏や豚の肉が外見を留めたままぶら下がっていた。
その隣のカウンターで、店員が器用に餃子を焼いている。
狭い店内は満席で、秋生を目敏く見つけたチャンが奥で手を上げた。
例によって、蝶ネクタイに緑のジャケットという目を蔽いたくなるような格好をしている。
チャンのところに行くまでの間、周囲のテーブルをざっと見渡すと、ほとんどの客が上海蟹にかぶりついている。それでようやく、もうこんな季節かと気づいた。
小ぶりな上海蟹は、暴れて身を傷つけないよう鋏を厳重に縛り上げたうえで、生きたまま蒸し焼きにするのがいちばん美味いとされている。上海料理の秋の定番だが、香港でも大人気だ。
この時期、食材屋の店頭には緑色の上海蟹が山と積まれることになる。
チャンのテーブルにはジャスミンティーの大きなポットが置かれ、すでに何品か料理が運ばれていた。
二人なので量は少なめにしているのだろうが、香港では、テーブルが料理で埋まっていないと縁起が悪いと思われ、とにかく品数を並べようとする。
そのうえほとんど酒を飲まないので、年配者はジャスミンティー、若者はスイカジュースやオレンジジュースのグラスを片手に、延々と食べかつ語る。
メイに聞くと、酒を飲まないのは「酔っている姿を他人に見られるのは恥」という意識が強いためで、自宅ではそれなりに飲むらしい。
これが北京や台湾になると、度数の強い酒を全員が我慢比べのように飲み比べることになる。
こちらも、酔い潰れた時点で「人間失格」と見なされるのだが。
派手なネオンで埋め尽くされる夜の香港
秋の風物詩・上海蟹