Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
7.ペニンシュラ・ホテル
麗子は肩の大きくあいた花柄の黒のブラウスに黒のギャザースカート、コケティッシュなラメの網タイツにピンクのハイヒールという挑発的な格好で、ローマのコロッセウムを思わせる円柱の立つペニンシュラ・ホテルのロビーに物憂げに佇んでいた。
昨日のスーツ姿も似合っていたが、今日は高級ファッション雑誌のリゾート特集にでも登場しそうなコーディネイトだ。秋生は午前中のうちに麗子に電話して、昨日と同じ午後三時にここで待っているように告げていた。
1928年に創業され、大英帝国の栄華を今にとどめるペニンシュラ本館では、ポーターたちが宿泊客の巨大な荷物を手際よくさばいていた。
中二階の桟敷席ではモーニング姿の弦楽四重奏団がモーツァルトを奏で、奥のカウンターには、チェックインの手続きを待つ観光客の長い列ができている。
誰もが慌しく、目の前の目的に向かって一直線に進んでいる。
その中で麗子の姿だけが、まるでグラビアの一ページを適当に切り抜いて立掛けたようだった。
秋生は麗子に声をかけると、ロビーに隣接するティールームに誘った。
アフタヌーンティーの時間とあって、平日の午後にもかかわらず、客席は八割ほど埋まっていた。
客の半分は欧米人、残り半分が日本人観光客だ。
ペニンシュラ・ホテル外観
ペニンシュラ・ホテルのティールーム