Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
5.上環(ションワン)
上環の少し先で「要落!」と叫び、バスを降りた。マキシキャブは、この魔法の呪文を知っているだけで、どこでも好きなところで停まってくれる。
マカオ行きのフェリーの発着場がある上環は、金融街・セントラルから一駅しか離れていないにもかかわらず、海産物の乾物問屋が軒を並べる典型的な香港の下町だ。
はじめてこの街を訪れた時、アワビやフカヒレの乾物が山のように積み上げられた店を冷やかしながら、丸の内の隣に浅草があるようなものだと思った。
大衆食堂や食材屋の派手な看板が並ぶ路地を入ると、秋生は一件の古い雑居ビルの前で足を止めた。
入口はそこだけ真新しい頑丈な鉄扉で、ナンバー式のオートロックとインターホンが取り付けられている。
インターホンを取って「901」とプッシュすると広東語で誰何され、「アキ」と名乗ると鉄扉のロックが外れた。
上環周辺には乾物屋が軒を連ねる