「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計


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文庫版まえがき 橘 玲

 前著『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』(以下、「黄金の人生設計」)では、21世紀初頭を生きる私たち日本人の人生がどのような条件によって規定されているかを、不動産と生命保険、年金・医療保険制度に焦点を当てて検討した。本書では、税・社会保障制度とファイナンス(資金調達)を中心に、日本社会の構造的な歪みが私たちの人生にどのような影響を与えるかを考えている。

 私たちはみな、日本の社会が不公平であると感じている。政治家は権力を弄び、官僚は国民の税金を不正に流用し、大企業は血も涙もない金儲けゲームに興じている。その陰で虐げられた庶民は、不況に耐えリストラに怯え、日々の生活を必死に生きている……。これは私たちの大好きな物語だ。

 美しい嘘は恋人たちを幻惑する。美しい物語は、私たちを正義へと導いてくれるかもしれない。だがその美しさが、幸福な人生へと続いている保証はない。

 争いや不正のない、自由で平等な社会を夢想する人たちがいる。だが残念なことに、私たちが生きている間にそのような理想社会が実現する可能性はない。社会は異なる思想信条と多様な欲望を持つ人々の集積であり、その衝突はしばしば際限のない殺し合いに帰着する。刻一刻と変化する万華鏡のような市場を、国家という不器用で鈍重な装置で管理することができるはずもない。

 私たちの社会は構造的に歪んでいる。これは善悪の問題ではなく、たんなる事実だ。その歪みから利益を得る人もいれば、富を奪われる人もいる。問われているのは、あなたがどちら側に立っているかだ。

 社会保障制度の崩壊が人々の不安を煽っている。少子高齢化によって年金制度は破綻する運命にあり、それを避ける方法はないのだと言う。だとしたら、解決不能の問題を喧々諤々議論することに何の意味があるだろう?

 だれもが億万長者になる夢を叶えられるはずもない。だが幸いなことに、世界でもっとも豊かな国のひとつである日本で、自分と家族の生活を守るのに十分な資産を築くことはそれほど難しくない。

 必要なのは、経済合理的に人生を設計する知識と技術だ。

 本書の親本は、2001年7月にメディアワークスから刊行された『ゴミ投資家のための人生設計入門[借金編]』であり、その後、前半部分(人生設計編)は『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』、後半部分(ファイナンス編)は『得する生活』(ともに幻冬舎)へと展開された。今回の文庫化にあたっては、構成を一部組み換え、細かなデータ部分を割愛し、シンプルにコンセプトが伝わるよう工夫したつもりだ。

 個人的なことを言うならば、本書の制作に携わったことが、サラリーマンとしての生活に区切りをつけるきっかけとなった。その意味で、私にとって思い出深い作品でもある。

2004年7月 橘 玲


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