The Traveling Millionaire


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第6章 人生設計としての海外投資

  2007年5月、東京地裁は消費者金融大手・武富士元会長(故人)の長男に対し約1300億円の追徴課税処分の取り消しを認め、国税当局は還付加算金(約130億円)を含む約1715億円を返還することになった。長男は97年から香港に移住し、99年にオランダ法人が保有する武富士株1600億円相当を贈与されていた(2008年1月、東京高裁はこの一審判決を取り消し、国側の逆転勝訴となった)。

 同年9月、同じ東京地裁で、株式売却益に対する約4億1000万円の課税処分を取り消す判決が出された。訴えていたのは元弁護士で、2000年12月にシンガポールに転出し、01年1月に約18億90009000万円で株式を売却し、04年4月に日本に転入していた(2008年2月末に高裁判決の予定)。

 このふたつの裁判は、所得税法に示された居住者と非居住者の定義をめぐって争われている。その条文は、わずか2行である。

「居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。」(第2条第1項第3号)

「非居住者 居住者以外の個人をいう。」(第2条第1項第5号)

 この短い条文が引き起こす課税トラブルが、ここ数年で頻発している。

  2006年7月、ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者が、3年間で35億円を超える申告漏れを指摘され、7億円を超える追徴課税を受けた。この翻訳者は2001年7月にスイス・ジュネーヴ市内にマンションを購入し、住民票を移していた。

 同じ7月、大手眼鏡専門店チェーンの会長が約700万株の自社株の売却益を申告していなかったとして、無申告加算税を含む約5億5000万円の追徴課税を通告されている。この会長もスイスに居住し、98年から03年にかけて100億円相当の株式を売却し、約30億円の利益を得ていたという。

 居住者と非居住者の区別がなぜ問題になるかというと、日本国の税法上、非居住者は制限納税義務者として、海外で得た所得に対する納税義務を免除されているからだ。

 日本の税法は属地主義が原則で、国籍を問わず、日本国の領土内に居住している個人・法人のすべての所得に対して納税義務を課す。海外で得た利益も、日本国の居住者であれば、国内所得と合算して申告・納税しなければならない(ノーベル賞受賞者が、海外での講演料や海外で受賞した際の賞金など約3200万円を申告していなかったと問題になったことがある)。

  だがひとたび非居住者になってしまえば、その瞬間に海外所得に対する納税義務が消失する。香港やシンガポールでは金融資産の譲渡益や利子・配当所得はもちろん、国(域)外で得た所得に対しても課税されないから、こうしたオフショア(タックスヘイヴン)に居所を移すことで、非課税のまま合法的にすべての利益を受け取ることができるのだ。これは富裕層にとって、法外に有利な取引である。

*非居住者であっても国内源泉所得には課税される。たとえば『ハリー・ポッター』シリーズの翻訳者の場合、翻訳印税の20%が日本側で源泉徴収されていた。


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