スイスの名門銀行で日本人顧客の口座から1000億円が消えた──。
橘玲の最新国際金融ミステリー『タックスヘイヴン』刊行を記念して、タックスヘイヴン・フォトツアーを公開いたします。小説に描かれた世界をたくさんの写真でお楽しみください。(Chrome/IE10以上推奨)
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Iduhara, Tushima
第1章 邂逅
厳原港のターミナルで古波蔵佑はフェリーの到着を待っていた。(中略)
接岸作業が終わると、フェリーの開口部から韓国人観光客を乗せた大型バスが降りてきた。煙草を靴底で揉み消し、細身のスラックスのポケットに片手を突っ込んで、古波蔵は駐車場に向かってゆっくりと歩きはじめた。(P7)
Hitakatu, Tushima
比田勝に着いた頃には、太陽は黒い山の陰に落ちていた。釜山に向かう高速船の最終便が出航した後で、ターミナルビルはシャッターが下ろされ、照明灯に照らされた駐車場に車の姿はなかった。(P13)
Haeundae, Busan
午前5時前に、船は海雲台の東にある小さな港に着岸した。操舵室から降りてきた船長に札束の入った封筒を渡し、スーツケースを駐車場まで引きずっていく。(P29)
Singapore
突然、タクシーの窓からライトアップした巨大な観覧車が見えてきた。その向こうには3棟のビルの上に船を載せたような奇妙な建物と、天に向かって枝を広げるバオバブの樹のオブジェ。手前には蓮の花を模したパビリオンがあり、次いで南国の果物ドリアンを2つ並べたような建物が現われた。まるで街全体がテーマパークのようだ。空には薄い雲がかかっているらしく、月も星も見えない。(P35)
Orchard Road, Singapore
日本大使館を出て高級コンドミニアムの並ぶ住宅街を歩き、オーチャードロードのショッピングセンターの前でタクシーを拾った。
赤道に近いシンガポールは12月でも気温が30度を超え、おまけに雨季で蒸し暑い。まだ午前10時前だというのに、5分も歩けば額から汗が滲み出してくる。(P39)
Central Police Division, Singapore Police Force
チャイナタウンに近い中央警察署まではタクシーで10分ほどだった。
近代的な青いビルに入るとセキュリティゲートがずらりと並んでいて、その向こうがエレベータフロアになっている。セキュリティゲートの右端に受付があり、中年の警察官が座っていた。一般来訪者はそこで用件を告げることになっているようだ。(P39)
Singapore General Hospital
北川の遺体が安置されているジェネラルホスピタルは東南アジア最大の医療機関で、メディカルビジネスでもアジアのトップを目指すシンガポールの戦略拠点でもある。(中略)。
アイリスは牧島と紫帆を東端のブロック9に案内した。玄関を入るとベーカリーが併設されたカフェがあって、その先がインフォメーションカウンターだ。(P40)
Singapore General Hospital
Busan
柳の手配した釜山のサービスアパートメントは民主公園に近い高台にあった。(中略)国際市場やチャガルチ市場のある南浦洞にも、風俗街の集まる釜山駅周辺にも徒歩圏内だ。(P45)
Jagalchi Market, Busan
「昼にロッテデパートの前で待ち合わせて、アルマーニかヴェルサーチのスーツ買うて、チャガルチ市場でアワビとヒラメの刺身を食うことにしてまんのや。面白そうやろ。いっしょにどうでっか」
古波蔵が「遠慮しとくよ」と断わると、「そうでっか、楽しみのない人生でんな」と嫌味をいって、(堀山は)いそいそと出かけていった。(P47)
Singapore River
ホテルから転落死した北川康志が住んでいたコンドミニアムは、シンガポール川沿いの高級住宅街の一角にあった。
セキュリティを通ると中庭にプールがあり、その隣がジムになっている。(P57)
Ruffles Singapore
翌日の正午、ラッフルズホテルの中庭に面したカフェはすでに3分の1ほど埋まっていた。シンガポールの建設者トーマス・ラッフルズの名を冠したホテルはコロニアルスタイルの白亜の建物で、背の高い椰子や棕櫚が植えられた中庭にはかすかに海の匂いの混じった風が吹き抜け、シンガポールの国花であるピンクの蘭のほか、ブーゲンビリアやプリメリアなど熱帯の花々が彩りを添えていた。
周囲のテーブルでは裕福そうな観光客がワインやビール、シンガポールスリングを片手にピザをつまんでいた。(P61)
The Fullerton Hotel Singapore
第3章 熱帯
シンガポールにはいまも、ラッフルズプレイスやラッフルズシティ、ラッフルズホテルなど、「建国者」であるラッフルズの名を冠した地名が多く残る。シンガポール川がマリーナ湾に流れ込むあたりがラッフルズプレイスで、高層ビルが立ち並ぶ金融の中心地だ。
この金融街から海に向かって川沿いに歩くと、ドーリア式の円柱が並ぶギリシア神殿のような建物が忽然と現われる。かつての中央郵便局は、いまは全面的に改装され高級ホテルとして生まれ変わった。(P114)
Marina Bay Sands, Singapore
夜11時まで待って、ホテルの前でタクシーを拾ってサンズに向かう。(中略)タワーの屋上を連結する船をかたどった空中庭園には水が空に向かって流れ落ちるように演出されたインフィニティプールがあり、アイドルグループがプールサイドを走るテレビコマーシャルで日本でもすっかり有名になった。(P116)
Marina Bay Sands, Singapore
Little India, Singapore
リトルインディアはその名のとおりインド系住民たちの街で、極彩色のヒンドゥー寺院を中心に、インド料理店や金細工を売る金行、香辛料や民族衣装を扱う店が集まっている。
駅を出ると目の前にティッカセンターという大きなマーケットがあり、1階がインド料理のホーカーズ(屋台食堂街)と食料品売り場、2階がショッピング街になっている。(P124)
Clarke Quay, Singapore
キー(Quay)は波止場のことで、その名のとおり、かつてはマレー半島のゴムやスマトラの香辛料を荷揚げする倉庫と桟橋が並んでいたが、いまは遊歩道に沿ってイタリアンやステーキ、海鮮中華、インド料理などの国際色豊かなレストランが軒を連ねている。どの店も川べりにテラス席を設け、行き交うリバーボートを眺めながら観光客がのんびりと時間をつぶしている。(P128)
Club Street, Singapore
ラッフルズプレイスからチャイナストリートを南に下り、大通りを越えるとクラブストリートに名前が変わる。狭い道の両側に洒落たカフェやバーが集まり、歩行者天国になる夕方にはビジネス街から流れてくる客でたいへんな賑わいになる。シンガポールでいまいちばん人気のスポットだ。(P129)
Bugis, Singapore
リトルインディアがインド系住民の街だとすれば、1キロも離れていないブギスはアラブ系のひとびとの一大コミュニティだ。サルタンモスクの周辺にはトルコ料理やレバノン料理の店が並び、一日じゅう観光客で賑わっている。近年になって、その外側のハジレーンやバグダッドストリートに洒落たバーやカフェが次々とオープンするようになった。(P143)
Sri Mariamman Temple, Singapore
チャイナタウン駅で降りて露天の並ぶパゴダストリートを歩くと、突然、極彩色のヒンドゥー寺院が見えてくる。シンガポール最古のスリ・マリアマン寺院で、イギリス統治時代の初期、この一帯がインド系住民の居住区だった名残りだ。朝は日が差していたのに、いつのまにか空全体を重い雲が覆っている。(P143)
The Fullerton Hotel Singapore
アイリスはカーテンを開け、窓から身を乗り出した。そうやってしばらく朝の風を感じていたが、古波蔵を振り返ると「水着を持ってくればよかったなあ」と大きなため息をついた。
このホテルにはラッフルズプレイスの金融街を一望できる素晴らしいプールがある。そこで朝のひと時を過ごすのが、ずっとアイリスの夢だったという。(P148)
One on the Bund, Singapore
金融街を抜けるとマリーナ湾の遊歩道に出た。その頃には日はほとんど落ちて、街灯がともりはじめていた。(中略)再開発にともなって閉鎖されたクリフォード桟橋をレトロ調の中華レストランに改装し、東洋のパリとも魔都とも呼ばれた1920年代の上海の雰囲気を再現している。そこからさらに歩くとレストランが軒を連ねるベイエリアになり、その先がマーライオン像だ。(P159)
Four Seasons Singapore
榊原が指定したのは、日本大使館から近いオーチャードロードのフォーシーズンズだった。
古波蔵がロビー階のバーに入ると、屋外テラスに座っていた若い男がかるく手を上げた。(P163)
Hawkers, Singapore
アイリスが指定したのはチャイナタウンの外れにある、ホーカーズと呼ばれるフードコートだった。さまざまなB級グルメの屋台が両側にずらりと並び、好きなものを買ってきて通路に置かれたテーブルで食べるセルフサービスの食堂で、警察署からは歩いて5分ほどだ。(P175)
Bintan Island, Indonesia
ビンタン島はインドネシア領だが、シンガポールから50キロほどしか離れていないので、1990年代からリゾートとして開発されはじめた。シンガポールにはセントーサ島くらいしかビーチがないので、観光客を避けて休日をのんびり過ごしたいシンガポーリアンはフェリーで一時間かけてビンタン島に渡るのだ。(P197)
Banyan Tree Bintan, Indonesia
ツーベッドルームのデラックスヴィラはリビングから直接プールに出られるようになっており、水をいっぱいに張った真っ青なプールの先はそのまま広大な南シナ海へと続いている。
「素敵!」部屋に入ると、アイリスは思わず歓声をあげた。(P198)
Bintan Beech
海岸沿いの道を下っていくとメインプールがあり、その先に真っ白な砂浜が広がっている。隣接するホテルとの共有で、ビーチサイドには本格的な窯でピザを焼くレストランがある。平日ということもあってひとの姿は少なく、海辺で子どもを遊ばせている家族連れが何組かいるだけだ。(P199)
Banyan Tree Bintan
「このホテルでは、敷地内の好きな場所にテーブルセットをつくってくれるのよ」アイスティーのグラスを片手にアイリスはいった。「海に突き出た岩場の上にテーブルを組んで、専用のシェフとウエイターをつけて、星空を見ながら食事したりできるの。素敵だと思わない?」(P199)
Red Moon
「きれい」アイリスが思わずため息を漏らした。「まるで魔法の国みたい」
低い月は大きくふくらみ、血のように赤かった。近くの雲も赤く染まり、夕焼けのようだ。
それからしばらく、3人で赤い月を眺めていた。(P203)
Marina Bay Sands, Singapore
第5章 夜の動物園
牧島と紫帆は、ホテルの高層階のベランダに並んで立っていた。マリーナ湾越しにライトアップされたサンズが見える。
午後9時半になると光のショーが始まった。サンズの屋上に載った船から青や緑のレーザーが放たれ、鮮やかな光が夜空に交差する(P300)
Johor Bahru, Malaysia
出入国管理所を抜け、隣接するショッピングセンターから一歩外に出ると、そこはむかしながらのチャイナタウンだった。入口に中華門のある狭い路地には「茶餐室」の看板を掲げた中華料理店が並び、表に並べられたテーブルでは老人たちが中国茶を飲みながら世間話に興じている。(P303)
Golden Triangle, Thailand
タイ、ミャンマー、ラオスの三つの国がメコン川で接する一帯はゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)と呼ばれている。タイ側から見て、メコン川を挟んで正面に見えるのがラオス領。左手に支流があり、メコン川とのあいだで中洲のようになっているのがミャンマー領だ。メコン川をそのまま北上すれば中国・雲南に至る。(P315)
Golden Triangle, Thailand
ミャンマーやラオスに渡る船着場の先に、英語で「ゴールデントライアングル」と書かれたモニュメントがある。台湾から来たらしい観光客の一団がその前で記念写真を撮っていた。それ以外には小さな山寺と、阿片を吸うパイプやクン・サーの写真を展示した麻薬博物館があるくらいだ。(P316)
Paradise Hotel, Myanmar
ボートが出発するとミャンマー領がすぐに近づいてくる。熱帯雨林の森を背景に、昨日の夜にホテルの部屋から見た建物がぽつんと建っている。それを指差して、ホテル兼カジノだとガイドは説明した。(P324)
Win & Win Casino, Paradise Hotel
Paradise Hotel Guest room
Mekong River from Paradise Hotel
ジジは紫帆と牧島に挨拶すると、「外に出ない?」といった。「子どもを部屋で待たせているのであまり時間はとれないけど」l
ホテルの前庭に東屋のような建物がある。階段を上ると茅葺の屋根の下に木製のベンチが置いてあって、目の前を茶色く濁ったメコン川が流れている。(P325)
Mandarin Oriental Bangkok, Thailand
朝の陽光に目が覚めてカーテンを開けると、目の前にチャオプラヤ川が流れていた。麻のシャツとパンツに着替えた古波蔵が一階に下りると、川に面したオープンカフェはリゾートホテルでの朝食を楽しむ欧米人で溢れていた。(P333)
Chiang Mai, Thailand
バンコクに次ぐタイ第2の都市チェンマイは、かつて北タイ一帯を治めたラーンナー・タイ王国の首都で、堀と城壁に囲まれた旧市街と、その周辺に広がる新市街に分かれている。旧市街まで歩いてワット・チェン・マンなどの寺院を見て回ったあと、ターベー通りを東に戻ってナイトバザールを訪れた。(P336)
Singapore Zoo
シンガポール動物園に隣接する約40ヘクタールの敷地につくられたナイトサファリは、夜行性の動物たちを間近に観ることのできる世界ではじめての専用施設だ。園内は極力檻を使わず、生垣や水路などを利用して動物たちを自然に近い状態で飼育している。(P348)
Night Safari, Singapore Zoo
Level63, 1-Altitude, Singapore
「レベル63」は世界でもっとも高いところにある屋上バーで、胸あたりの手すりを除けば視界を遮るものはなにもない。マリーナベイからオーチャードロード、一大リゾートとなったセントーサ島まで、シンガポールのすべてが一望のもとだ。(P351)
Ruffles Singapore
階段を上がると広いホールがあり、ヨーロッパ調の重厚な家具と調度品が置かれている。かつては植民地で暮らすイギリス人たちの社交に使われたのだろうが、いまでは宿泊客がたまに覗きにくるくらいだ。
「新しくできたブランドホテルもいいんですけど、どこも効率優先で設計されているからこんな無駄な空間はないでしょ。それが歴史のあるホテルとのちがいですよね」榊原はそういって、古波蔵をバルコニーの側のテーブルに案内した。「ここはほとんど他人が来ないので、内密な話をするときに使っているんです」(P356)
Cherry Blossom
第6章 桜雨
「今年はじめて桜を見ました」榊原が目を細めた。「こんなに近くで毎日働いているのに、自然の美しさを知る暇もなく、見せつけられるのは社会のゴミ溜めばかり」
「この世界はゴミからつくられてるんだからしょうがねえだろ」古波蔵はいった。「あんたたちだってしょせんゴミの一部だ」(P394)
Cherry Rain
「梅が実る頃の雨が梅雨でしょ。タイやインドではマンゴーが熟する雨季をマンゴーレインって呼ぶんですってね」マスターがいった。「だったら今夜は桜雨ですね」(P397)
Photo: Alt Invest Com Ltd.
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