This Golden Life Plan Brings You the Real Freedom!


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文庫版まえがき 橘 玲

 ノストラダムスの不吉な予言にもかかわらず、世紀末最後の年は夢と希望に溢れていた。株式市場はインターネット・バブルに沸き、億万長者が続々と誕生し、情報処理・通信技術の飛躍的な進化によって人類が夢見た平等で豊かな社会が実現できると誰もが信じていた。その年の11月に、本書の親本である『ゴミ投資家のための人生設計入門』(メディアワークス)が刊行された。

2001年4月に小泉政権が誕生し、郵政事業や道路公団の民営化を目指す“聖域なき改革”が始まった。同年9月にはニューヨークで同時多発テロが起き、アメリカによるアフガニスタン侵攻とイラク戦争がそれに続いた。

当時も今も、不安の時代を背景に、世の中には怪しげな人生論や生き方指南本が溢れている。だが自分と家族の将来を真剣に考える時、オカルトや精神論、道徳的説教や陰謀史観は何の役にも立たない。必要なのは人生の大海原を漕ぎ渡る海図と羅針盤ではないだろうか――私たちはそんなことを考えていた。

今回の文庫化にあたって、執筆者の一人としてあらためて本書を読み返してみると、ときに性急な主張や思い込みも目につく。だがそれ以上に、ここには未知の世界を発見した驚きと、それをひとりでも多くの読者に知ってもらいたいという熱気がある。このような本はたぶん二度と書けないだろう。

すべての日本人にとって不幸なことに、本書の主張の多くは現時点でもそのまま通用する。

公的年金や企業年金、医療保険制度が構造的に破綻せざるを得ない理由を本書で述べたが、それとまったく同じ議論が現在も繰り返されている。本書が時代を先取りしていたという話ではない。“改革”に明け暮れた4年の歳月を経ても問題はなにひとつ解決せず、私たちは今も同じ場所に留まり続けている。

日本の生命保険会社は魅力に乏しい商品を義理と人情を武器に販売してきた。そのうちのいくつかが経営破綻し外資に買収され、業界地図は大きく塗り替わったが、聞き慣れぬ名前の保険会社が似たような商品を売り歩くようになっただけだ。

ここ数年、80年代のバブル期を上回る戸数のマンションが販売されている。長期金利の低下と住宅ローン減税によってマイホーム取得に千載一遇のチャンスが訪れたからだという。不動産の世界では、過去はすべて記憶の彼方に葬り去られることになっている。バブル崩壊以降の十数年間、金利はいつも「反転」し、地価は常に「底打ち」していた。

今や年間の自殺者数は3万人を越え、自己破産件数は30万件に迫ろうとしている。給与は減り、退職金制度は廃止され、終身雇用制は能力主義と容赦ないリストラに取って代わられた。私たちはもはや国家にも、企業にも頼ることはできない。懸命に働けば努力は必ず報われた幸福な時代は二度と戻ってはこない。

日々の生活の糧を第三者から与えられながら、人は自由に生きることができるだろうか? これが私たちに投げかけられた問いだ。

国家にも企業にも依存せずに自分と家族の生活を守ることのできる資産を持つことを「経済的独立」と言う。人生を経済的側面から考えるならば、私たちの目標はできるだけ早く経済的独立を達成することにある。真の自由はその先にある。

この本で、私たちはたったひとつのことしか述べていない。

誰もがかぎられた時間の中で、かけがえのないただ一度の人生をつくり上げていかなくてはならない。その時に必要なのは、世界にたった1枚しかない自分だけの設計図を描く知識と技術だ。

それはもちろん、私自身の課題でもある。

橘 玲


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